論文紹介

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第1章   緒 言

 

コンテナ船やフェリーなどの船舶では、比較的大型で高速化が要求されることから、2軸船型が採用される。そのうち、2軸2舵船は低速時の舵効きが良好で、港内の操縦性能に優れている。省エネルギーの観点からは2軸1舵が採用されることも多い。

一方、漁船では1軸1舵が基本であり、速力重視の必要性から大馬力のエンジンを搭載し、また大きなプロペラを装備している。そのため、船型は一般商船に比べて船尾喫水が極端に深い船型となって最適形状から外れ、船体抵抗を大きくしている。最近では燃費削減のため、低負荷で運転されることの多いこと(13)が報告されているが、こうした船型ではその効果も少ない。

以上の点を踏まえると、漁船の動力システムの最適化、適正化を念頭においた技術開発が不可欠であり、一例として商船分野で普及している2軸船型の漁船への導入の可能性も将来的に有望である。この場合、プロペラ直径を小さくすることができ、船型の最適化も容易である。また、片軸運転などによって効果的な低負荷運転が可能になる。しかしながら、2軸船の場合は、多様な操船が可能になる反面、操縦性を推定する方法も確立しておく必要がある。

 一般商船を対象とした2軸船の操縦性については、2軸2舵船では芳村(2)、李(3)などによる詳細な研究があるが、2軸1舵船については意外と少ない。古くは玉井ら(4)の研究があるが、実船試験結果や自由航走模型試験結果にとどまっている。これに対して湯室(5)は、流体力学的な見地から研究を行っているが、実用的な推定法の提案には至っていない。2軸1舵船の操縦運動を流体力学的背景に基づいて予測するには、船体・プロペラ・舵の干渉係数の取り扱いを明確にすることが不可欠となるが、左右のプロペラが船体中心線上の舵に及ぼす影響は、舵がプロペラ直後に無いことから2軸2舵船より複雑である。本論ではこうした点を踏まえ、拘束模型試験を実施して、実績のある1軸1舵船用の標準MMG数学モデル(7)を基本にした、2軸1舵船の操縦運動簡易モデルについてまず検討する。

 一方、漁船は船の長さが短いにもかかわらず、高速で航走する。フルード数は艦船、高速フェリーと肩を並べるほど大きい。このような船舶では回頭運動の発達に伴い、船体に大きな横傾斜が発生するだけでなく、その横傾斜がさらなる回頭運動を誘起することがある。2009年には、斜め追い波中を航行中の2軸1舵フェリー「ありあけ」が横傾斜により航行不能となる事故が起きた。この事故では、当時の航跡の記録などから、横傾斜した直後に急速な左旋回状態となったことが分かっている。このように、中速船では船体が横傾斜すると急激な回頭運動を生むことがあり、こうした現象が事故に結び付くことも少なくない。また、2014年には韓国の旅客フェリー「セウォル号」が転覆し、約300名の犠牲者が発生した事故も、あるいは類似の要因による可能性がある。

そこで本研究では、さらに横傾斜を付けた拘束模型試験も行い、船体が横傾斜した時のプロペラ推力および舵力特性を詳細に計測し、横傾斜を含む実用的な操縦運動推定法を検討することとした。その際、シミュレーションの数学モデルは、1軸1舵船の標準モデルに横傾斜を加えた4自由度操縦運動数学モデル(8)を踏襲する。検討結果は自由航走模型試験結果と比較し、中速船型の操縦性能の特徴について考察する。

本論の構成は以下のとおりである。まず2章では、1軸1舵船のMMG数学モデル(7)をベースとして、2軸船のプロペラ回転数を倍、プロペラ直径を倍とする操縦運動簡易モデルの検討を行う。次に3章では、第2章で検討した2軸1舵船の簡易モデルに横傾斜を加えた4自由度操縦運動モデル(8)によるシミュレーションを行い、横傾斜を与えた自由航走模型試験との比較により、2軸1舵船型に対する実用的な操縦運動推定法を検討する。さらに4章では、事故を起こしたフェリー「ありあけ」を想定して定傾斜させた操縦シミュレーションを実施し、こうした船舶の操縦性能の特徴についてまとめる。最後に、本論の結論を5章に要約する。

第2章 2軸1舵船のプロペラ推力・舵力の簡易モデルの検討

2軸1舵船の操縦運動を流体力学的背景に基づいて予測するには、2軸1舵船の船体・プロペラ・舵の干渉係数の取り扱いを明確にすることが不可欠となるが、左右のプロペラが船体中心線上の舵に及ぼす影響は、舵がプロペラ直後にないことから2軸2舵船より複雑である。本論では実績のある1軸1舵船のMMG数学モデル(7)をベースとして、プロペラ回転数を倍、プロペラ直径を倍とする1軸相当回転数とプロペラ直径に置き替えることによって2軸1舵船の船体・プロペラ・舵の干渉力を表現することを試みる。供試船には2軸1舵のフェリー船型を選び、拘束模型試験を実施して流体力特性を明らかにすると共に、この数学モデルを用いて操縦運動の推定を行い、本推定法の妥当性を自由航走模型試験で確認する。

2.1 拘束模型試験

拘束模型試験は、主に舵角試験を北海道大学の曳航水槽にて実施した。模型船は2軸1舵のフェリーで、表2.1にはその主要目を、図2.1には模型船の写真を示す。なお、船尾付近の形状は図2.2に示すとおり、両軸をシャフトブラケットで支持する形式である。流体力は図2.5に示すように、原点を船体中央に固定した座標系に従って計測した。主船体の流体力計測用の4分力計は一点ゲージ方式とし、船体中央に取り付けた。なお、一点ゲージ方式の場合、特にNモーメントが大きく、ゲージ歪みも大きくなるため、事前に分力検定を行い、解析の段階で分力補正を行った。模型船はヒーブ、ピッチを自由とした。舵直圧力は図2.3に示すように、操舵機の舵軸に取り付けた検力計で計測した。プロペラ推力の計測には図2.4に示す、2台の自航動力計を使用し、左右のプロペラを同一回転数に設定し、プロペラ軸は右舷側のシャフトを中間シャフトを介してユニバーサルジョイントで接続し、左舷側をカップリングで直接モーターに接続した。

流体力は次式のように無次元化した。ただし、L=LPP d=dm(平均喫水)、r  は水の密度、Uは船速、nはプロペラ回転数を表す。

         (1)

船速は1.0m/s(Fn=0.209)で一定とし、プロペラ荷重度を変更して実施した。表2.2には、それらの項目を示す。ただし、表中のn0はプロペラ推力と船体抵抗が釣り合うようなプロペラ回転数(MPP:Model Propulsion point)で、実験はこのほかに2倍、半分の推力となるようなプロペラ回転数を与えて実施した。

2.2 プロペラ・舵の干渉係数

2軸船において、左右のプロペラ推力TS(右舷)とTP(左舷)については、直進航走中は基本的に同じであるが、操舵あるいは旋回・斜航すると、プロペラの流入速度が左右で異なる結果、左右の推力に差が生じる。軸間距離が長い場合、これが船に回頭モーメントを少なからず与えることになる。しかし、多くの場合、軸間距離はプロペラ直径のオーダーなので、ここでは左右の推力差を無視して以下のような取り扱いをする。ただし、左右のプロペラ回転数は同一とする。

1) 左右のプロペラ推力を合わせて1軸のプロペラ推力とする。

2) プロペラ直径を倍とし、プロペラ回転数を倍として解析を行う。

            (2)

このような1軸相当回転数と1軸相当プロペラ直径を用いて解析すると、2軸合わせたプロペラ推力は次式で表現できる。

   (3)

ただし、は左右のプロペラ推力係数の平均値となる。

2.2.1 解析方法

推力減少係数(1- t)は単純に左右のプロペラ推力の合計から求めることができる。すなわち、

               (4)

また、プロペラの有効伴流係数(1-w)は計測した左右のプロペラ推力から個別に求めたが、図2.7に示すように、直進中は左右で大きな違いはなく、後述するプロペラ後流の解析では(3)式のを用いて次式で求めた同図破線の値を用いる。ただし、a0a1a2はプロペラ単独試験によるKT -J特性を表す係数(図2.6に表示)で、もとの2軸船のプロペラと同じである。

               (5)

                 (6)

一方、MMGモデルによる1軸1舵の舵有効流速のモデルは次式で表される(7)。ただし、euR0 /uP (=(1-wR)/(1-w))であり、プロペラの有効伴流係数に対する舵位置の有効伴流係数の大きさとなっている。また、kkx /e であり、舵位置におけるプロペラ増速率を表す。

   (7)

舵直圧力一致法によって、上記の未知数ek を解析するに際しても、(7)式中のKTJ、(1-w)の特性は前述の1軸として解析した結果を使用する。ただし、h はもとのプロペラ直径から幾何学的に求めており、表2.1の要目に掲げた値を使用する。

u’Rの実験値は直進舵角試験で得られた舵直圧力特性(図2.8の結果)を用いて、次式で求めることができる。ただし、AR:舵面積、fa:舵単独の直圧力係数勾配(藤井式)() である。

                  (8)

解析を行う舵有効流速uRはプロペラ有効流入速度uPに対する増速率とし、これをプロペラ荷重度に対して図2.9のように表示できる。図中の◇印が上述の実験値であり、これらのパラメータを非線形計画法(詳細は末尾の付録に記載)によって(7)式で近似した結果が破線となる。

また、舵との干渉係数および船体の整流係数についてはMMGモデルではそれぞれ次式で表される(7)が、2軸1舵船も舵は1つであることから、1軸1舵船と同じ解析方法が適用できる。

             (9)

                    (10)

2.2.2 解析結果

2軸1舵の供試模型船の干渉係数を表2.3の左側に示す。同表の右側にはITTCベンチマークデータの供試船となっている1軸1舵KCSコンテナ船の各種の干渉係数(8)を参考までに比較する。

 表2.3より、2軸1舵では(1-w)が大きく、e k が通常の1軸1舵と比べて小さくなっているのが特徴的である。本供試模型船は、図2.2のとおり、両軸をシャフトブラケットで支持する形式であるため、プロペラ有効伴流が小さくなり、(1-w)が大きくなった。

また、e  は2軸1舵船では舵位置の伴流がプロペラ位置よりも大きくなって(1-wR)が小さくなるため、この値が小さい。k は2軸1舵の場合は舵位置では左右のプロペラ噴流が舵に当たりにくくなることから、この値が低下すると考えられる。

この点について、緒言でも紹介したように、湯室(5)は2軸のプロペラ軸間距離(2yP)を種々に変え、これらのプロペラ後流中の舵角試験を詳細に行っている。ただし、船体は無く、座標系は図2.10に示すとおりである。図2.11には、文献(5)に掲載されたプロペラ推力と舵直圧力の計測結果を読み取り、これを(3)式、(7)式で再解析し、2軸1舵状態のプロペラ増速率kx (この実験ではk と同じ)を求めた結果を示す。横軸がプロペラ直径で無次元化したプロペラ軸間距離で、プロペラ増速率kx を縦軸で表している。また、同図には1軸1舵船の平均的なプロペラ増速率(kx=0.6)を軸間距離=0の位置に×印で示す。この結果から、軸間距離がプロペラ直径程度では、1軸1舵船の約1/2程度に低下し、本供試船のように軸間距離がプロペラ直径の1.3倍では1/3程度、更に軸間距離が長くなってプロペラ直径の2倍以上になると、2軸プロペラの後流影響がほとんど無くなることを示している。

同図には表2.3に示した本供試模型船のプロペラ増速率を●印で表すが、湯室(6)の実験結果よりやや小さいものの、これに近い結果が得られており、湯室(5)の実験結果と整合性がある。

2.3 操縦運動シミュレーション

前述の干渉係数の取り扱いに従って、2軸1舵の本供試模型船の操縦運動シミュレーションを行い、これらを自由航走模型試験結果と比較する。

2.3.1 左右のプロペラ推力差を表す操縦運動モデル

2軸船において、左右のプロペラ回転数が同一であっても、斜航・旋回すると左右の推力TS(右舷)とTP(左舷)は異なる。これは、プロペラの流入速度が左右で異なることによって生じ、これに伴って回頭モーメントが生じる。

船の操縦運動の運動方程式は図2.5の座標系を用いて表す。

 (11)

式中のuGvGrGは船体重心における速度成分を、右辺のXYNは船体中央における定常流体力成分を表す。流体力はMMGの考え方に従って、船体、プロペラ、舵の各力の成分に分離する。ただし、m:船体質量、mx:船体前後方向の付加質量、my:船体横方向の付加質量、Izz:旋回運動の慣性モーメント、Jzz:旋回運動の付加慣性モーメントである。なお、これらのうち旋回運動の慣性モーメントIzzは、経験的に用いられる(旋回運動の慣動半径)=0.25Lを用いて計算する。mxmyJzzには、元良チャート(6)を引用し、本供試模型船の主要目から得た値を用いる。

また、プロペラの力は主に前後方向の推力であり、推力減少係数(1-t)を用いて、X’Pを次式で表す。その際、プロペラの前進定数Jは左右のプロペラ流入速度の違いを考慮する。

           (12)

ただし、                             (13)

                          (14)

とし、プロペラ単独特性は一定とする。yPは船体中心線からプロペラまでの横方向の距離とする。また、プロペラの有効伴流係数(1- w)の表現は表2.5の項目に従って実施した斜航角付き舵角試験の結果(図2.12)を用いて次式でモデル化する。ただし、この図の横軸はプロペラ位置での流入角(この試験ではr’= 0)を表す。なお、同図の点線は、1軸1舵KCSコンテナ船の(1-w)(8)を参考までに示しており、(1-w)が最小となるbPは比較的y 軸に近い。

                   (15)

ただし、               (16)

一方、2軸1舵船では、(1-w(S))はbP≒+15°付近、(1-w(P))はbP≒-15°付近で最小となっており、このような流入角がy 軸上となるような、(16)式で表されるbP*を横軸をとった時の関係(図2.13に表示)から、上式のb0b2を求める。

 また、左右のプロペラ推力差が誘起する回頭モーメント係数N’P

       (17)

ただし、

図2.14には、上記の回頭モーメントN’Pを(13)~(17)式を用いて軸間距離をパラメータとして計算した結果を示しており、このモーメントは左右の推力差と軸間距離に応じて大きくなる。また、図中の点線は左右の推力差を無視した場合に上記の値が何度の操舵に相当するモーメントになるかを(9)式中のN’Rとして示しており、縦軸はN’Pと同じスケールである。また、同図の◆印は、左右の推力差を考慮した舵角35°旋回のシミュレーションから計算した結果をプロットしたものであり、これらから、本供試模型船の軸間距離(同図yP/B=0.139)において、推力差が10%程度となっているが、この場合でも舵角1°未満に収まることが分かり、操縦運動中の左右の推力差は無視できると考えられる。したがって、本研究において、左右のプロペラ回転数が同一の場合は左右の推力差に基づく回頭モーメントは割愛する。

2.3.2 左右の推力差を無視した場合のシミュレーションの数学モデル

シミュレーションを行う数学モデルは、1軸1舵船の標準的なMMG型数学モデル(7)を使用し、プロペラ直径を2軸の倍とし、プロペラ回転数を倍として計算する。プロペラの推力のKT-J特性は2軸船のプロペラと同じである。

運動方程式は(18)式に示すとおりで、式中のuGvGrGは船体重心における速度成分を、右辺は船体中央における定常流体力成分を表す。流体力はMMGの考え方に従って、船体、プロペラ、舵の各力の成分に分離する。ただし、m:船体質量、mx:船体前後方向の付加質量、my:船体横方向の付加質量、Izz:旋回運動の慣性モーメント、Jzz:旋回運動の付加慣性モーメントである。

            (18)

主船体流体力X’H Y’H N’H は(19)式に示す船体中央におけるbr’の多項式で表す。表2.4には、別途実施したCMTなどの拘束模型試験で得られた本供試模型船の船体流体力微係数(9)を掲げる。

     (19)

プロペラの力は(2)式に示した1軸相当プロペラ直径D*Pとプロペラ回転数n*を用いて次式で表す。

               (20)

ただし、式中の推力係数は(5)、(6)式のとおりである。

また、船体と舵との干渉は(9)式を用いる。ただし、式中の舵直圧力係数AR:舵面積、fa:舵単独の直圧力係数勾配(藤井式)() とし、次式で表す。

                   (21)

上式中のは船速で無次元化した舵の有効流速を表し、次式での船体前後方向成分:と横方向成分:および有効迎角を用いて表す。

                   (22)

ただし、は次式とする。は船体の整流係数、は舵の前後位置を表す係数である。

  (23)

2.3.3 自由航走模型試験

 本供試模型船の自由航走模型試験を実施し、旋回航跡やスパイラル特性、Z試験の時系列を求めた。実験は北海道大学水産学部水泳プールとJMU運動性能水槽の双方で実施した。

実験は無線送信機による手動操船で直進させた後、定常船速に達した時点で自動操舵に切替えて実施した。舵角、回転数の他、船体運動の回頭角、回頭角速度については1軸ファイバーオプティックジャイロ(FOG)、横傾斜角などは6軸慣性ジャイロによって計測し、航跡や船速は測量で用いられる自動追尾トータルステーションを用いて陸上から計測した。船内データと陸上データの同期は、実験開始時にトータルステーションの反射プリズムを移動させ、双方のデータに記録される移動記録から同期をとった。なお、左右のプロペラは両舷軸をギアで分割して左右同じ回転数にした。

船速は実船の航海速力(Fn=0.268)、および半速程度のFn=0.188とし、GMは実船で1.87mとした。

2.3.4 シミュレーションと自走模型試験の比較

舵角±35°旋回航跡のシミュレーション結果を図2.15の曲線(点線)で船速ごとに示す。ただし、左右の推力差は考慮していない。自由航走模型試験の航跡は同図の△◇印であり、船速が増加するとアドバンスがやや大きくなっている。また、曲線(点線)とほぼ重なる同図の実線は、左右の推力差を考慮した場合の計算結果を表しているが、左右の推力差を無視しても航跡にほとんど違いがないことが分かる。

図2.16には各船速でのスパイラル特性の比較を示す。自由航走模型試験結果は□◇印である。これらの比較から、シミュレーション結果は自由航走模型試験結果と大略一致している。

図2.17には各船速について20°/20°Z試験における実舵角と回頭角の時系列を示す。これらの比較から、第1オーバーシュート角の自由航走模型試験結果とシミュレーション結果がほぼ一致していることがわかる。

以上の結果より、(2)式に示した1軸相当回転数とプロペラ直径を用いることによって、1軸1舵の操縦運動数学モデル(7)で2軸1舵船の操縦運動を推定できることが確認できた。

2.4 まとめ

2軸1舵船の船体・プロペラ・舵の干渉係数について、拘束模型試験結果を解析し、また操縦運動をシミュレーションするに際して、1軸相当プロペラ回転数とプロペラ直径を用いることによって、2軸1舵船の操縦運動を容易にシミュレーションできることを示した。本章の主な結論を以下に要約する。

1)2軸船のプロペラ直径を倍とし、プロペラ回転数を倍として1軸1舵船と同様 な方法で解析を行い、また操縦シミュレーションに際しても同じ取扱いをする方法は、2軸1舵船の簡単で実用的な操縦運動モデルとして大変有効である。

2)プロペラと舵の干渉係数について、2軸1舵船では、e  kx が通常の1軸1舵と比べて小さ

くなるのが特徴的である。e はプロペラの有効伴流係数に対する舵位置の有効伴流係数の大きさであり、2軸1舵船では舵位置の伴流がプロペラ位置よりも一般に大きいために、この値が小さくなる。

3)プロペラ増速率kxの減少は、左右のプロペラ噴流が舵に当たりにくいことがこの要因である。この値は、本供試模型船では通常の1軸1舵船の1/4程度になったが、湯室の実験結果(5)を再解析することによって、この値が妥当である他、プロペラ軸間距離に大きく依存することが改めて確認できた。

表2.1 供試模型船の主要目

LPP  (垂線間長)(m)2.344
B  (型幅)(m)0.356
dm  (平均喫水)(m)0.100
トリム(m)0.
▽ (排水容積)(m3)0.0443
xG  (重心前後位置)(m)-0.100
D(プロペラ直径)(m)0.0756×2
P/DP (ピッチ比) 1.103
回転方向 外回り
軸間距離/DP 1.32
Λ (舵アスペクト比) 1.470
η (=DP/舵高さ) 0.879
AR/(Lppdm) 1/46.7

表2.2 プロペラ荷重度を変えた舵角試験(直進中)の項目

 d:舵角(deg)
n/n0-25-20-15-10-50510152025
1.4  
1.0
0.7  

表2.3 干渉係数の比較

 2軸1舵
フェリー
1軸1舵
KCSコンテナ船
1- t0.79690.8109
1-w0.85580.6639
1-tR0.85310.5583
aH0.40210.2316
x’H-0.6464-0.7118
gR0.39380.4115
l’R-0.7953-0.7739
e0.73360.9056
k0.16280.7067
kx0.11940.6400

表2.4 CMTによる船体流体力微係数(9) (HR状態で舵力成分は控除)

X’0-0.0212 
X’ββ-0.0348 
X’βr-m’y-0.0957 
X’rr-0.0070 
X’ββββ-0.0018 
Y’β0.2501 
Yr-m’x0.0346 
Y’βββ2.6087 
Y’ββr-1.7091 
Y’βrr1.1682 
Y’rrr-0.0461 
N’β0.0966 
N’r-0.0513 
N’βββ0.4218 
N’ββr-0.8629 
N’βrr0.1459 
N’rrr-0.0439 

表2.5 斜航角付き舵角試験(単純斜航中)の項目 (◎:FN =0となる舵角についても実施)

 b:斜航角(deg)
n/n0-18-12-9-6-303691218
1.0

図2.1 供試模型船

図2.2 供試模型船(船尾付近)

図2.3 操舵装置と                             図2.4 自航動力計

舵力計測用2分力計

図2.5 流体力の座標系

図2.6 実験に使用したプロペラの単独特性

図2.7 直進中のプロペラ有効伴流係数(1- w)

図2.8 舵角に対する舵直圧力特性(舵角試験結果)

図2.9 プロペラ荷重度に対するuR/ uP特性

図2.10 舵角試験(船体なし)の座標系

図2.11 2軸1舵のプロペラ後流(船体なし)舵角試験結果の再解析
(文献(5)に掲載された図表からの再解析結果)

図2.12 単純斜航中のプロペラ有効伴流係数(1-w)

図2.13 単純斜航中のプロペラ有効伴流係数(1-w) (横軸のみ変更)

図2.14 左右の推力差による回頭モーメント

図2.15 舵角±35°旋回航跡の比較(上図:Fn=0.268、下図:Fn=0.188)

図2.16 スパイラル特性の比較(上図:Fn=0.268、下図:Fn=0.188)

図2.17 20°Z試験の時系列の比較(上図:Fn=0.268、下図:Fn=0.188)

第3章 2軸1舵船型の横傾斜を含む操縦運動推定法

コンテナ船やフェリーなどの中速船では回頭運動の発達に伴い、船体に大きな横傾斜が発生するだけでなく、その横傾斜がさらなる回頭運動を誘起することがあり、こうした現象が事故に結び付くことも少なくない。しかしながら、複雑な流体力学特性が存在する2軸1舵船の操縦運動を解析、およびシミュレーション可能な数学モデルがないことから、中高速で航行する2軸1舵船型に対する実用的な操縦運動推定法が確立していない。

そこで本論では、2軸1舵の本供試模型船について、横傾斜をパラメータとした拘束模型試験を実施し、横傾斜時の船体・プロペラ・舵の干渉係数の取り扱いを明確にした上で、操縦運動シミュレーションを行い、2軸1舵船の横傾斜を含む操縦運動推定法を検討することとした。その際、数学モデルは、第2章で検討された2軸1舵船の簡易モデル(1)に船体の横傾斜を加えた4自由度操縦運動モデル(8)とし、推定結果は横傾斜を与えた自由航走模型試験と比較し、シミュレーションの妥当性を確かめた。

供試船は2軸1舵フェリーとし、その主要目は表2.1に示すとおりである。

3.1 横傾斜を付けた拘束模型試験

 横傾斜を付けた拘束模型試験は、主に舵角試験を北海道大学の曳航水槽にて実施した。流体力は図3.1に示すように、原点を船体中央に固定した座標系に従って計測した。ただし、y軸方向はhorizontal body axesにもとづいて水平とした。また、高さ方向は模型船の重心に近づけたが、必ずしも一致できず、解析の段階で補正を行った。模型船はヒーブ、ピッチを自由とし、roll方向は所定の横傾斜角を設定して固定した。流体力は次式のように無次元化した。ただし、L=LPP d=dm(平均喫水)、r  は水の密度、Uは船速、nはプロペラ回転数を表す。

 (24)

船速は1.0m/s(Fn=0.209)で一定とし、表2.2の項目の実験を、f =10°、-10°、-20°の横傾斜角についても同様に実施し、解析を行う。

3.2 横傾斜時のプロペラ・舵の干渉係数

 プロペラ・舵の干渉係数の解析は第2章と同じ方法で行う。すなわち、

1) 左右のプロペラ推力を合わせて1軸のプロペラ推力とする。

2) プロペラ直径を倍とし、プロペラ回転数を倍として解析を行う。

3.2.1 解析方法

 推力減少係数(1-t)は、単純に左右のプロペラ推力の合計から求めた。また、直進中のプロペラ有効伴流係数(1-w)は計測した左右のプロペラ推力から個別に求めたが、図2.7(f =0°)および図3.2~3.4に示すとおり、1軸として求めた同図破線の値は概ね左右の平均値に一致しており、後述するプロペラ後流の解析においても(1-w)KTJの特性は1軸として解析した値を用いる。

その際、u’Rの実験値は横傾斜した時も第2章と同じ方法で(8)式で求めることができ、舵有効流速uRはプロペラ有効流入速度uPに対する増速率とし、これをプロペラ荷重度に対して表示できる(図2.8~2.9(f =0°)および図3.5~3.10)。ただし、図3.10(f =-20°)のプロペラ増速率(もしくは修正係数k) はマイナスの値となっており、横傾斜角20°では片側のプロペラが水面付近となり、荷重度が大きくなる場合(図3.4(n/n0=1.4))、エアードロー(空気吹き込み)を起こしたことから、後のシミュレーションにおいて、この部分の(もしくはk)は採用しないこととする。

3.2.2 解析結果

各傾斜状態で求めた2軸1舵の本供試模型船の干渉係数を表3.1に載せる。なお、表中のf=0°の値は2章の結果と同じである。また、これらを横傾斜角に対して示したのが図3.11~3.14で、これらの結果から分かることを以下にまとめる。

・推力減少係数(1-t)、有効伴流係数(1-w)、舵・プロペラ位置での伴流係数比e およびプロペラ増速率(もしくは修正係数k) は横傾斜によってほとんど変化しない。

・舵に関する前後、横、回頭方向の干渉係数(1-tR)、は横傾斜によって若干変化する。

・船体の整流係数は横傾斜によって減少する傾向にある。

これらの干渉係数のうち、1軸1舵船として解析した(1-w)およびe k (若しくは)は

横傾斜に対してほとんど変化しないことから、後の操縦運動シミュレーションでは一定値として取り扱う。

 また、舵との干渉係数や船体の整流係数は2軸1舵船も舵は1つであることから、1軸1舵船と同じ取り扱いができ、これらの干渉係数の横傾斜による変化は文献(8)と同じ取り扱いをする。

 以上の検討結果より、シミュレーションにおける干渉係数の横傾斜による変化は整流係数のみを考慮する。

3.3 横傾斜を含む操縦運動シミュレーション

前述の干渉係数の取り扱いに従って、2軸1舵の本供試模型船の横傾斜を含む操縦運動シミュレーションを行い、これらを自由航走模型試験結果と比較する。

3.3.1 シミュレーションの数学モデル

シミュレーションを行う数学モデルは、2軸1舵船の簡易モデル(1)に横傾斜を加えた4自由度操縦運動数学モデル(8)とし、プロペラ直径を2軸の倍とし、プロペラ回転数を倍として計算する。プロペラの推力のKT-J特性は2軸船のプロペラと同じである。

運動方程式は(25)式に示すとおりで、式中のuGvGrGは船体重心における速度成分を、またfGは船体重心における横傾斜角を表し、右辺の各成分は船体中央における定常流体力となる。流体力はMMGの考え方に従って、船体、舵、プロペラの各力の成分に分離する。ただし、m:船体質量、mxmy:前後,横方向の付加質量、IzzIxx:旋回,横揺れ運動の慣性モーメント、JzzJxx:旋回,横揺れ運動の付加慣性モーメントである。なお、これらのうち、旋回運動の慣性モーメントと横揺れの慣性モーメントには、4自由度操縦運動モデル(8)を踏襲し、旋回運動の慣動半径を0.25L、横揺れの慣動半径を0.4B(但し、付加慣性モーメントを含む)として計算した値を用いる。mxmyJzzには、元良チャート(6)を引用し、本供試模型船の主要目から得た値を用いる。

    (25)

横傾斜を加えた場合の主船体流体力XYNの表現は実績ある3自由度の操縦運動に使用されるbr’の多項式をベースにf の影響を合理的に取り入れた多項式により、表3.2に示す、横傾斜を付けたCMTによる解析結果(9)を用いて、具体的に以下のような考え方でモデル化する。

定常旋回においては、右旋回でbr’ が共にプラスでf がマイナスになり、逆に左旋回ではこれらの極性が逆になる。従って、定常旋回状態を想定すると、左右対称型の3自由度数学モデルの微係数のfに対する修正量は全て|f|もしくはf の偶関数となる必要がある。

一方、左右対称船型で3自由度では基本的に存在しない左右非対称性を表す微係数は|f|もしくはf の奇関数で表現され、この代表的な項が、の第一項に表れるである。この他に考えられる項としては、非線形微係数およびの項がある。ここでは微小になるとして0として考える。

以上を考慮すると、横傾斜を加えた主船体流体力XYNは(26)式で表せる。表3.4には、f  に対する変化を表す係数の解析結果を掲げる。また、KモーメントはCMTなどの拘束模型試験を解析した見掛けの(表3.3中の斜航付き旋回状態)(9)を用いて(27)式で表現する。ただし、は横揺れ減衰係数であり、は復原モーメントを表す係数である。

     (26)

            (27)

           (28)

ここに、aは横揺れ減滅曲線の線形係数を表す。

プロペラの力は(2)式に示した1軸相当プロペラ直径D*Pとプロペラ回転数n*を用いて(20)式で表す。また、船体と舵との干渉は横傾斜による水平成分を考慮して次式で表す。

       (29)

および舵の有効流速と有効迎角は(21)、(22)式とする。ただし、の前後方向成分と横方向成分は次式で表す。は船体の整流係数、は舵の前後位置を表す係数である。

 (30)

また、整流係数の横傾斜による変化は次式で表現する。

                                        (31)

3.3.2 横傾斜を与えた自由航走模型試験

横傾斜が操縦性能に与える影響を確認するために重心高さ(GM)や船速を変え、操縦運動による横傾斜の大きさを変えた自由航走模型試験を実施した。

実験は北海道大学水産学部水泳プールとJMU運動性能水槽の双方で実施した。模型船はラジコン送信機による無線操船で航走させ、試験は自動操舵によって行った。なお、左右のプロペラは両舷軸をギアで分割して左右同じ回転数にした。回転数、舵角の他、船体運動の回頭角、回頭角速度については1軸ファイバーオプティックジャイロ(FOG)、横傾斜角などは6軸慣性ジャイロによって計測し、航跡や船速は測量で用いられる自動追尾トータルステーションによる測位計測から求めた。試験内容は旋回試験、逆スパイラル試験、Z試験である。

 GMは計画状態のGM=1.87mを含む3~4種類とし、船速は実船の航海速力(Fn=0.268)、およびその半速程度のFn=0.188とした。

3.3.3 シミュレーションと自走模型試験の比較

図3.15には、GMに対する舵角±35°旋回航跡を船速ごとに示す。図の曲線がシミュレーション結果で、自由航走模型試験結果は記号で示している。また、GMに対する旋回圏および定常時の横傾斜角を示したのが図3.16および図3.17となり、それぞれ舵角右35°旋回と左35°旋回の結果である。これらより、自由航走模型試験結果、シミュレーション結果ともにGMの減少やFnの増加によって横傾斜が大きくなると旋回圏が小さくなって旋回性能が強くなることことがわかり、自由航走模型試験とシミュレーション結果がほぼ一致することが確認できる。

また、図3.18、3.19にはGMに対するスパイラル特性および定常時の横傾斜角を船速ごとに示す。図3.18がFn=0.268、図3.19がFn=0.188の結果である。上記と同様に、自由航走模型試験結果は記号で示し、シミュレーション結果は曲線で示している。これらより、自由航走模型試験、シミュレーション結果ともにGMの減少によって横傾斜が大きくなると大舵角のr’ は大きくなって、旋回性能が強くなることがわかり、シミュレーション結果がいずれの船速でも自由航走模型試験結果と大略一致することがわかる。

次に、図3.20、3.21には、20°/20°Z試験の実舵角と回頭角の時系列および横傾斜角の時系列を船速ごとに示し(図3.20:Fn=0.268、図3.21:Fn=0.188)、図3.22には、これらの結果から得た第一オーバーシュート角および横傾斜角の最大値をGMに対して表示している。記号が自由航走模型試験結果、曲線がシミュレーション結果である。これらの図より、自由航走模型試験結果、シミュレーション結果ともにGMの減少やFnの増加によって横傾斜が大きくなって、第一オーバーシュート角が大きくなり、針路安定性が低下する傾向が見られ、自由航走模型試験結果とシミュレーション結果が概ね一致している。

以上の結果より、横傾斜を含む4自由度操縦運動モデル(8)による実用的な操縦運動推定を行うにあたって、2軸1舵船型に対して1軸相当プロペラ回転数とプロペラ直径を用いる手法(1)が有効であることが確認できた。

3.4 まとめ

2軸1舵のフェリー船型について、横傾斜を付けた拘束模型試験を解析し、横傾斜した時の船体・プロペラ・舵の干渉係数の取り扱いを明らかにしたほか、横傾斜を含む操縦運動シミュレーションに際しても、1軸相当プロペラ回転数とプロペラ直径を用いる方法が妥当であることを確認した。本章の主な結論を以下に要約する。

1)2軸船のプロペラ直径を倍、プロペラ回転数を倍として1軸1舵船と同様の方法で

解析を行い、また操縦シミュレーションに際しても同じ取扱いをする方法は、2軸1舵船の横

傾斜を含む実用的な操縦運動モデルとして有効である。

2)2軸1舵フェリーなどの中速船型では横傾斜が操縦性能に与える影響は、GMの減少やFnの増加によって横傾斜が大きくなり、旋回性能が強くなって、針路安定性が低下すると考えられる。

3)干渉係数の横傾斜に対する変化は、推力減少係数(1-t)、有効伴流係数(1-w)、舵・プロペラ位置での伴流係数比e およびプロペラ増速率(もしくは修正係数k) については横傾斜に対してあまり変化しない。ただし、舵に関する前後、横、回頭方向の干渉係数(1-tR)、および船体の整流係数は横傾斜によって若干変化するが、これらのうち、(1-w)およびe k (若しくは)は横傾斜を含むシミュレーションにおいても一定値として取り扱ったほか、船体と舵との干渉係数や船体の整流係数は2軸1舵船も舵は1つであることから1軸1舵船と同じ取り扱いができ、横傾斜に対する変化は整流係数のみとしたが、推定結果は良好であった。

表3.1 横傾斜角ごとに得られた干渉係数

2軸1舵フェリー   
roll angle (°)100-10-20
1-t0.85990.79690.78230.8172
1-w0.87230.85580.86460.8863
1-tR0.79130.85310.72110.7651
aH0.37530.40210.34440.2533
xH-0.6273-0.6464-0.7739-0.9072
gR0.36670.39380.35520.3168
l’R-0.8357-0.7953-0.8505-0.8890
e0.73990.73360.73400.7835
k0.15580.16280.1504
kx0.11530.11940.1104

表3.2 CMTによる主船体流体力微係数(9)(HR状態で舵力成分は控除)

roll angle (°)10.30-9.98-19.8
Surge force    
X’0-0.0206-0.0212-0.0213-0.0211
X’β0.00230.00460.00580.0029
X’r0.00100.0002-0.0020-0.0036
X’ββ-0.0715-0.0348-0.0280-0.0575
X’βr-m’y-0.0841-0.0957-0.0943-0.0865
X’rr-0.0116-0.0070-0.0130-0.0153
X’ββββ0.3594-0.00180.07540.1532
Sway force    
Y’00.00390.0010-0.00070.0014
Y’β0.25160.25010.24430.2343
Y’r-m’x0.03490.03460.03780.0217
Y’ββ-0.06120.03670.10710.0883
Y’βr0.1271-0.0147-0.1213-0.2047
Y’rr-0.03000.00200.01370.0155
Y’βββ2.47062.60872.45912.0476
Y’ββr-1.6172-1.7091-1.6101-1.0502
Y’βrr1.06691.16821.08960.8317
Y’rrr-0.0436-0.0461-0.06100.0447
Yaw moment    
N’0-0.00140.00050.00240.0031
N’β0.09950.09660.09830.1055
N’r-0.0471-0.0513-0.0457-0.0396
N’ββ-0.04970.00880.05180.0821
N’βr0.0228-0.0048-0.0190-0.0143
N’rr-0.0056-0.00020.00220.0035
N’βββ0.41060.42180.39850.2918
N’ββr-0.8057-0.8629-0.7956-0.6390
N’βrr0.14160.14590.13910.1177
N’rrr-0.0439-0.0439-0.0507-0.0395

表3.3 CMTによる横力の見掛け作用位置(9) (HR状態)

roll angle (°)10.30-9.88-19.8
z’H(p.sway)0.69910.65760.66130.7371
z’H(p.yaw)-0.6419-0.6419-0.7279-0.6506
z’H(sway & yaw)0.30280.28260.30920.4971

表3.4 横傾斜に対する微係数変化

Surge force   
X’0 cx0-0.0258
  X’βf-0.0018
  X’rf0.0090
X’ββ cxββ2.0973
X’βr-m’y cxβr-0.3171
X’rr cxrr3.7355
X’ββββ cxββββ-261.56
Sway force   
Y’0 Y’f0.0053
Y’β c-0.1359
Y’r-m’x cyr-0.6153
  Y’ββf-0.2979
  Y’βrf0.6309
  Y’rrf-0.0852
Y’βββ cyβββ-0.5165
Y’ββr cyββr-0.8424
Y’βrr cyβrr-0.6983
Y’rrr cyrrr0.1972
Yaw-moment  
N’0 N’f-0.0087
N’β c0.2220
N’r cnr-0.6168
  N’ββf-0.2509
  N’βrf0.0720
  N’rrf-0.0170
N’βββ cnβββ-0.6657
N’ββr cnββr-0.6338
N’βrr cnβrr-0.4431
N’rrr cnrrr-0.0478

図3.1 流体力の座標系

図3.2 直進中のプロペラ有効伴流係数 (f =10°)

図3.3 直進中のプロペラ有効伴流係数 (f =-10°)

図3.4 直進中のプロペラ有効伴流係数 (f =-20°)

図3.5 舵角に対する舵直圧力特性(舵角試験結果)(f =10°)

図3.6 プロペラ荷重度に対するuR/ uP特性(f =10°)

図3.7 舵角に対する舵直圧力特性(舵角試験結果)(f =-10°)

図3.8 プロペラ荷重度に対するuR/ uP特性(f =-10°)

図3.9 舵角に対する舵直圧力特性(舵角試験結果)(f =-20°)

図3.10 プロペラ荷重度に対するuR/ uP特性(f =-20°)

図3.11 横傾斜に対する推力減少係数(1-t)、プロペラ有効伴流係数(1-w) の変化

図3.12 横傾斜に対するプロペラ・舵の伴流係数比e、および

    プロペラ増速率kx(=ek)(もしくは修正係数k)の変化

図3.13 舵に関する前後、横、回頭方向の干渉係数

(1-tR)、aHaHx’Hの横傾斜による変化

図3.14 横傾斜に対する整流係数の変化

図3.15 GMに対する舵角±35°旋回航跡の比較(上図:Fn=0.268、下図:Fn=0.188)

図3.16 GMに対する旋回圏と横傾斜角(舵角右35°)

図3.17 GMに対する旋回圏と横傾斜角(舵角左35°)

図3.18 GMに対するスパイラル特性と横傾斜角(Fn=0.268)

図3.19 GMに対するスパイラル特性と横傾斜角(Fn=0.188)

図3.20 20°Z試験の時系列(上図:回頭角、下図:横傾斜角)の比較(Fn=0.268)

図3.21 20°Z試験の時系列(上図:回頭角、下図:横傾斜角)の比較(Fn=0.188)

図3.22 GMに対するオーバーシュートと横傾斜角

第4章 中速船型の荷崩れを想定した

定常横傾斜が操縦性能に及ぼす影響

中速船では回頭運動の発達に伴い、船体に大きな横傾斜が発生するだけでなく、その横傾斜がさらなる回頭運動を誘起することがあり、これが海難事故につながる場合も少なくない。また、実際に、フェリー船型では、荷崩れに伴う横傾斜によって急速な回頭運動を誘発したとみられる事例がある。

操縦運動に及ぼす横揺れの連成影響については、昨今幾つか研究報告があり、著者らもKCSコンテナ船をはじめとして研究を行ってきた(8)。しかしながら、定常の横傾斜が操縦性能に及ぼす影響についての研究は少なく、2軸1舵船型で推定を行った例もない。そこで、4章では、荷崩れを想定し、定常の横傾斜を与えた操縦運動をシミュレーションし、その上で、実際に横転事故を起こしたフェリー「ありあけ」の当時の航跡を再現する。供試模型船は「ありあけ」を想定した2軸1舵フェリーで、主要目は表2.1に示す。シミュレーションの数学モデルは、第2章で検討した2軸1舵船の簡易モデル(1)に横傾斜を加えた4自由度操縦運動モデル(8)とした。

4.1 定常横傾斜を含む操縦運動シミュレーション

4.1.1 シミュレーションの数学モデル

数学モデルの運動方程式は(25)式に示すとおりである。ただし、Kモーメントには、荷崩れによる横傾斜角に相当する外力項を事前に計算し、これを初期状態で与えた。主船体流体力XYNの表現は3章と同じで、(26)式に示すとおりである。また、船体・プロペラ・舵の干渉係数の取り扱いは、2章を踏襲し、プロペラ直径を倍とし、プロペラ回転数を倍として計算する。プロペラの推力のKT-J特性は2軸船のプロペラと同じである。

4.1.2 定傾斜を付けた自由航走模型試験

定常の横傾斜が操縦性能に与える影響を調べるために、2軸1舵の本供試模型船について荷崩れを想定し、定常の横傾斜を付けた自由航走模型試験を行った。実験は停止状態で所定の横傾斜となるよう左右のバラストウエイトを調整し、所定の船速で直進走行の後、自動操舵で舵角35°旋回試験および逆スパイラル試験を実施した。模型船の回頭角、回頭角速度、横傾斜角等はファイバ・オプテッィク・ジャイロと6軸慣性ジャイロによって計測し、航跡や船速は測量で用いられる自動追尾トータルステーションを用いて計測した。なお、左右のプロペラは両舷軸をギアで分割して左右同じ回転数にした。

 GMは計画状態のGM=1.87mとし、船速は実船の航海速力(Fn=0.268)とした。

4.1.3 シミュレーションと自走模型試験の比較

図4.1には、定常の横傾斜を付けた舵角±35°旋回試験の航跡を初期傾斜角ごとに示す。また、図4.2には、舵角±35°旋回試験を含む各旋回試験および逆スパイラル試験から得られた本供試模型船のr’-d カーブを初期傾斜角ごとに示す。図の曲線がシミュレーション結果で、記号が自由航走模型試験結果である。これらより、傾斜方向と反対側に舵角をとった+35°旋回試験のr’については、自由航走模型試験結果、シミュレーション結果ともに舵角中央におけるr’のシフト分が概ね加算されてr’が大きくなり、定常横傾斜によって旋回半径が小さくなっている。なお、横傾斜角を与えた方向の-35°旋回試験のr’はアップライトのr’と概ね似た特性で、定常横傾斜角の影響が少ない傾向にある。

4.2 フェリー「ありあけ」を想定した中速船型の定傾斜に対する航跡の再現

2009年11月、三重県熊野灘で斜め追い波中を航行中のフェリー「ありあけ」が大角度の右傾斜によって荷崩れを生み、横倒しとなる事故が起きた(12)(図4.3)。この船の航跡の記録(11)(図4.4)を見ると、横傾斜した直後に急速な左旋回状態となり、船の遠心力で荷崩れを更に加速したと考えられる。運輸安全委員会の船舶事故調査報告書(11)においては、荷崩れによる船体運動への影響として、この現象が急激な左旋回を引き起こした可能性について触れていないが、文献(8)の横傾斜による操縦性能の変化と同じメカニズムで発生したと考えられる。

また、4.1節において、フェリー船型ではr’-d カーブがr’=0付近で傾斜させた側にシフトし、これが舵角中央におけるシフト分となって概ね加算されてr’ が大きくなり、定常横傾斜によって旋回性能が強くなることが示された。そこで、今度は針路を保持しながら、荷崩れを想定して右傾斜させたまま航行した場合の船の航跡をシミュレーションし、定常横傾斜が舵を切っていないにもかかわらず、旋回性能を強くする現象について再現する。

GMは出港時の1.87mとし、船速は実船航海速力の20kn (Fn=0.268)(事故当時と同一)とした。図4.5には、右舷側に定傾斜させたまま、舵中央で航行した時の航跡をシミュレーションした結果を、通常の舵角35°旋回試験(GM=1.87m)の実験結果および計算結果と比較して示す。この図から、荷崩れすることによる運動への影響として、右舷側への横傾斜が左回頭を引き起こし、この現象は舵を切っていないにも関わらず、左舵一杯に操舵した旋回試験よりも急激な旋回運動となって表れることが確認できる。

さらに、設定針路に船首を保持するような指令舵角を与えた場合にも、船体運動に定傾斜の影響が強く表れるのか、右傾斜した状態で航行した時の航跡をシミュレーションし、確認する。指令舵角の設定は次式とする。式中のc1c2は、それぞれ船の方位角と船体運動の角速度に対する修正比を表す係数である。これらの値は、当時「ありあけ」が自動操舵で航行していた時の設定と同一とする。

    (32)

ただし、    

計算結果は図4.6に示すとおりで、通常の舵角35°旋回試験の実験結果およびシミュレーション結果と比較して、大きな航跡となった。しかし、パラメータの時系列を図4.7に示すように、そのときの船体運動のデータは、横傾斜によって左回頭が発達していくことを示しており、右舵も効いていない。以上の結果から、いったん船体が傾くと舵を切っても船の回頭を止められないことが分かった。フェリー「ありあけ」の事故では、傾斜した側とは反対側の回頭運動が引き起こされ、荷崩れにより船体が大きく傾いたことで保針が困難となり、操舵とは反対方向の回頭運動を生じた可能性が高い。

4.3 まとめ

4章においても、プロペラ推力および舵力の表現は、1軸相当プロペラ回転数と1軸相当プロペラ直径を用いる手法(1)によって、操縦シミュレーションを実施し、こうした船舶の操縦性能の特徴について検討した。本章の主な結論を以下に要約する。

1)フェリーの定傾斜時の操縦性能は、傾斜方向と反対側に舵角をとった+35°旋回試験のr’について、舵角中央におけるr’のシフト分が概ね加算されてr’が大きくなり、定常横傾斜によって旋回半径が小さくなる傾向が示され、この現象は、傾斜方向とは逆側の急激な回頭運動となって表れることを確認した。

2)フェリー「ありあけ」の事故では、荷崩れにより船体が大きく傾いたことで保針が困難となり、操舵とは反対方向の回頭運動を生じた可能性が高い。

図4.1 初期傾斜角に対する舵角±35°旋回航跡の比較 

図4.2 初期傾斜角に対するスパイラル特性の比較

図4.3 横倒しとなったフェリー(12)

図4.4 事故を起こした船の航跡(11)

図4.5 舵中央で定傾斜した時の航跡(定傾斜状態)のシミュレーション結果と

舵角-35°旋回試験の比較

図4.6 自動操舵で航行した時の航跡(定傾斜状態)のシミュレーション結果と

舵角-35°旋回試験の比較

図4.7 自動操舵で航行した時のパラメータの時系列(定傾斜状態)のシミュレーション結果

第5章   結 言

 本研究では、漁船においても2軸船の採用が有望なことを前提に、特に2軸1舵船の操縦運動を推定するモデルの検討を試みた。具体的には、2軸1舵船の船体・プロペラ・舵の干渉係数について、拘束模型試験結果を解析し、また操縦運動をシミュレーションするに際して、1軸相当プロペラ回転数とプロペラ直径を用いることによって、2軸1舵船の操縦運動を推定できること(1)を示した。また、横傾斜を含む操縦運動シミュレーションに際しても、プロペラ・舵の干渉係数は1軸船として取り扱い、1軸1舵の標準MMGモデル(7)をベースに、横傾斜を加えた4自由度操縦運動数学モデル(8)を用いることによって、2軸1舵船の操縦運動を容易にシミュレーションできることを示した。本研究の主な結論を以下に要約する。

1)2軸船のプロペラ直径を倍とし、プロペラ回転数を倍として1軸1舵船と同様な方

法で解析を行い、また操縦シミュレーションに際しても同じ取扱いをする方法は、2軸1舵船

の実用的な操縦運動モデルとして有効である。このモデルはまた、横傾斜を伴う場合にも適用

することができる。

2)横傾斜に対する船体・プロペラ・舵の干渉係数の変化は、推力減少係数(1-t)、有効伴流係数(1-w)、

舵・プロペラ位置での伴流係数比e およびプロペラ増速率(もしくは修正係数k) につい

ては横傾斜に対してほとんど変化しない。ただし、舵に関する前後、横、回頭方向の干渉係数(1-tR)、および船体の整流係数は横傾斜によって若干変化するが、これらのうち、(1-w)およびe k (若しくは)は横傾斜を含むシミュレーションにおいて一定値として取り扱ったほか、船体と舵との干渉係数や船体の整流係数は2軸1舵船も舵は1つであることから1軸1舵船と同じ取り扱いができ、横傾斜に対する変化は整流係数のみとしたが、推定結果は良好であった。

3)プロペラと舵の干渉係数について、2軸1舵船では、e  kx が通常の1軸1舵と比べて小さくなるのが特徴的である。e はプロペラの有効伴流係数に対する舵位置の有効伴流係数の大きさ であり、2軸1舵船では舵位置の伴流がプロペラ位置よりも一般に大きいために、この値が小さくなる。またプロペラ増速率kxは、左右のプロペラ噴流が舵に当たりにくくなることから通常の1軸1舵船の1/4程度になることがわかり、この値の妥当性についても湯室の実験結果(5)を再解析することによって確かめた他、プロペラ軸間距離に大きく依存することも確認した。

4)フェリー等の中速船では横傾斜が操縦性能に与える影響は、GMの減少やFnの増加によって横

傾斜が大きくなり、旋回性能が強くなって、針路安定性が低下する傾向にあることが、自由航

走模型試験、およびシミュレーションで明らかとなった。

5)フェリーの定傾斜時の操縦運動は、傾斜方向と反対側に舵角をとった+35°旋回試験のr’について、舵角中央におけるr’のシフト分が概ね加算されてr’が大きくなり、定常横傾斜によって旋回半径が小さくなる傾向が示され、この現象は、傾斜方向とは逆側の急激な回頭運動となって表れることを確認した。

6)フェリー「ありあけ」の事故では、荷崩れにより船体が大きく傾いたことで保針が困難となり、操舵とは反対方向の回頭運動を生じた可能性が高く、この回頭運動が更なる横傾斜を増大させ、事故を拡大した可能性がある。

以上の結果は、複雑な船体・舵・プロペラの流体力学特性が存在することによって正確なシミ ュレーションができなかった2軸1舵船の操縦運動の推定に大変有効であるほか、第4章で取り上げた2軸1舵フェリー「ありあけ」の事故の解明などにも役立つと考えられる。また、2軸1舵船の操縦装置の設計に資するだけでなく、こうした船舶の操縦性能の特徴を理解し、操船する場合においても大変有効になると考えられる。今後の課題として、漁船の動力システムの最適化を念頭に、2軸2舵を装備する船についても類似の取り扱いが可能と考えられ、2軸2舵船の操縦運動モデルについて類似の方法で検討が行えることが期待される。